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ある境界条件に基く波動現象を通してみた:熱状態の観測
佐藤実 -m/s, 2000年英語版翻訳
熱状態を扱ったこの作品は、空気の波動現象を通して熱状態の分布と平衡をみるものである。それは時空間における変位として、如何に熱交換が行なわれるのかという出来事に関する一つのモデルとなるであろう。
空気中を伝搬する粗密波の運動は、物理科学上「波動方程式」で記述される。この運動力学を解く上で幾つかの条件が必要とされる。観測されるべき空間の境界条件、粗密波の初期状態、さらに媒質中の伝搬速度である。媒質が空気の場合、粗密波の伝搬速度は空気の温度に比例する。また空間が特定の境界を持つならば、そこでの振動現象はある特定の周波数成分が強調される結果となる。このことは波動力学上、定在波により浮かび上がる空間の共鳴現象として位置づけられる。
この作品では、口径、長さ、厚みを統一したガラス管を異なる熱状態に置くことにより幾つかの観測空間を設けている。これらの空間は総て同じ境界条件を有していると考える事が出来る。つまり熱状態が同じならば同じ共鳴を持つものである。一方、ここでは異なる熱状態にそれらの空間を設置する。人口光や自然光によりそれぞれの空間の温度を変えることにより波動の伝搬速度は変わり、それぞれの空間の熱状態に応じた共鳴周波数が強調されることになる。
この現象について別の視点つまり熱力学の視点から考えてみることにしよう。熱運動は熱分布の平衡状態を求めて発散する現象である。この意味においてそれぞれの空間はお互いの間で常に熱交換を行っていると言える。熱運動とは電磁波としての光により励起された分子運動より誘導されるものである。このことは質点の運動のような単体としての分子運動の問題ではなく、統計力学上の問題である。加えて光とは真空中をも伝搬できる時空間の性質であり、電磁波の一種である。つまり、光とは私達が事物を識別する基準としての時空間それ自身に関わっている。この点より熱力学の作用により生じる振動現象は、時空間の問題へと導かれる。
故にこの作品において聴くことが出来る定在波の変位とは、時空間の性質としての光により生じた熱状態の統計的な結果と言える。光、温度、振動を通して焦点をあてられる時空間の状態、この作品がその状態について想像を巡らす一つの契機となることを願う。

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